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伊藤 満 フジBC技研 代表取締役社長
MQLが変える機械加工の文化 ミストの完全制御を目指す
オイルを霧状にして加工ポイントに供給する。最小量の油で、最大限の成果を引き出すMQL(Minimum QuantityLubrication:超微量潤滑油供給)技術は、環境負荷対応を迫られる産業界で、静かなブームを引き起こしている。米国で生まれたコンセプトだが、いつの間にか日本が世界をリードするまでになった。
MQL給油機に心血を注ぎ、活動しているベンチャー企業が名古屋にある。フジBC技研だ。MQLが全社売上高の50%以上を占める企業は、世界にここしかない。MQLとの出会いから、メーカーとして参入するまで約20年。目下の課題はオイルミストの完全制御だ。経験則の集積ではなく、科学的アプローチでワールドスタンダードモデルの実現を目指す。一代でオンリーワン企業を築いた創業者、伊藤満社長に聞く競争力保持の秘訣とは?(2008年 春号掲載)
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フジBC技研の沿革:1972年フジ交易株式会社として名古屋市中区に設立/1979年ミルコーナ社(スウェーデン)の超硬切削工具の輸入販売開始/1983年グランルンド社(スウェーデン)の座ぐり工具の輸入販売開始/1984年ステムラム社(スイス・英)の切削工具の輸入販売開始/ヴァーガス社(イスラエル)の超硬ねじ切り工具の輸入販売開始/1989年ITW社(米)の「ブルーベセミドライ加工システム」の輸入販売開始/1993年ブルーベのライセンス生産開始/1995年初の自社開発製品「カットピア」を発売/1997年「エコブースタ」を開発・発売/2000年ISO14001取得/2002年原社名に変更/2007年中国現地法人設立
取材:照山みどり(マシナリー・ルブリケーション) |
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ミストを自在に操る
編集部(以下ML)
:MQLに取り組まれるまでの経緯は?
伊藤社長(以下伊藤)
:当社の前進はフジ交易という貿易商社で、欧州メーカーの切削工具の輸入販売からスタートしています。1972年の創業時から、長く切削工具がビジネスの軸となっていました。1980年代後半に、独のハノーバーで開催された欧州国際工作機械見本市(EMOショー)で、Illinois Tool Works(ITW社)のセミドライ加工システムと初めて出会いました。現在のMQLとほぼ同じ設計思想のシステムです。当時は、独自技術で勝負できる企業にならなければ生き残れない、という強い危機感を抱えていました。セミドライ加工システムから、「今後は、これだ」と直感させられました。まだMQLという言葉もありませんでしたが、「微量の油で加工するシステム」という概念はありました。しかも、植物油で、生分解性があり、環境にも優しい。89年にITW社から輸入販売権を獲得し、93年には国内でライセンス生産を開始しました。システム本体は輸入ですが、これにフィットした切削工具を独自開発し、95年に「カットピア」として発売しました。これが、商社からメーカーへ変貌した一歩でした。その際に、「独自製品の売上が輸入販売品を超えたら、新たな社名でスタートしよう」と決めていました。これが達成できたのが2001年です。翌年に、現在の社名に変更しました。
ML
:MQLは、どこから来た概念なのですか?
伊藤
:もともとのアイデアは米国から生まれています。一例ですが、大型飛行機の機体の機械加工は、大量の水溶性クーラントを使用します。この加工では、クーラントが飛散してしまい、使用できません。このためドライ切削を選択せざるを得なく、工具寿命が極端に短かくなります。できる限り少ない油で加工点に給油すれば、工具寿命が延びるということから、セミドライ装置が開発された訳です。ポンプで油を送り、エアで混合させてミストを発生させます。当初は鋸盤やドリルなど、手動で比較的シンプルな工具に使用されていました。
ML
:日本がMQL給油に注目したのは?
伊藤
:NC(Numerical Control)化のトレンドが来た時期で、加工に精密な制御が必要になります。当時の単純なオイルミスト精製技術ではシステムにフィットしていなかったので、新たなコンセプトが要求されました。
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| 本社内の基幹工場。内部給油機「エコブースター」の組立工程 |
ML
:97年に独自のミスト発生装置を内部給油機として市場に出しています。
伊藤
:この「エコブースタ」は、スピンドルスルータイプマシニングセンタや、NC旋盤など、機械配管を通じてミストを搬送し、オイルホール工具などを使用して刃先にミストを塗布します。従来の外部給油では不可能だったATC付きマシニングセンタ、回転式タレットのNC旋盤でもセミドライ加工が可能になりました。極限までミストを小さくして運ぶための技術がポイントになります。
ML
:ミストの理想的な大きさは?
伊藤
:小さくなればなるほど、運びやすいのが油の粒子です。回転体の中では、小さいほうが遠心力の影響を受けにくくなります。しかし小さすぎると、工具の刃先に届かず、浮遊してしまいます。経験上、ミスト直径は、2〜5μm程度が搬送するのに適しており、大気に放出された後の加工点では、粒子とある程度重なり合い、20〜50μmの粒子となり、潤滑剤として機能します。
ML
:エコブースタの販売履歴などを教えてください。
伊藤
:まだ大半が国内市場向けです。国産の工作機械に搭載されて海外の生産現場にて使用されるケースもあります。全体的な市場は今のところ未知数ですが、日本でまず大きくなると思っています。我々が参入する前の給油機自体は、システムとして付加価値の高いものではありませんでした。外部給油機(外付け)も、内部給油機(装置内部組み込み)も、数十万円だったと思います。我々は、消耗品として潤滑油をセット販売することを考えました。植物油はまだ加工油として認知されていませんでしたが、今は我々の強みになっています。
ML
:加工油の主体は、基本的に植物油ですか?
伊藤
:ニーズによって、ポリオールエステル系合成油も提供しています。使用条件によってポリマー化(固形化)するなどの植物油の欠点を克服するために、若干の添加剤を入れなければなりませんが、むしろ人工的に作ったほうが安全というユーザーの声もあります。これにも生分解性は保持しています。日本のユーザーニーズは多様化しています。もちろん、ミスト状の油の性状の良さもポイントになります。
我々の提供する油は、基本的にスローアウェイ(廃棄可能)タイプでなければなりません。廃棄業者に委託しなければならないような油は絶対に使うつもりは本社内の基幹工場。内部給油機「エコブースター」の組立工程ありません。オイルミストが健康に与える影響は、以前から議論がありました。我々も実験を重ね、安全であろうと確信できるものを提供しています。
ML
:香川大学の若林利明先生と共同研究をされています。
伊藤
:一言でいうと「何が潤滑に効いているのか」、がテーマです。例えば、高速回転のマシニングセンタ−に潤滑油がどのように作用しているか、連続切削の旋盤にどのように応用したらいいのか、実際の精度はどうか、など、基本的な特性の研究です。あらゆる研究に着手していますが、まだ道半ばで、いずれも凄く難しいです。機械加工技術は、膨大なファクターの集積です。一つのパラメーターを操作すると、全てに影響が及びます。基礎研究の場合、パラメーターをふった結果が実現できる範囲なのかどうか、確信できない場合がある。単純化モデルを作成して、検証していくのですが、そのモデルが膨大になってしまう。科学的アプローチから最終的に再現性・信頼性の高いものを作り上げるのは、極めて厳しい作業です。
ML
:今着手されている研究成果が市場に出るのは?
伊藤
:私が呼ぶところの「ワールドモデル」は、あと4〜5年で出します。弊社のモデルをスタンダード化したい。I havea dreamですよ(笑)。
ML
:どのような点が差別化のポイントになりますか?
伊藤
:既存のシステムには、不安定要素がまだ残っています。例えば、ミストを切削ポイントに運ぶために、空気の差圧を利用しています。ここを、電気的な制御に変えます。
ML
:ミストに電荷をかける、ということですか?
伊藤
:加工部への付着率が増加し、飛散ミストも減少します。ミストの粒経はさらに小さく、制御性も向上するでしょう。MQLという分野は、理学的な部分がほとんど手付かずの状態なのです。油のケミストリーはもちろん、流体力学にいたるまでの知識が要求されます。難しいですが、実現に向けやり抜きます。
巨大な可能性に懸ける
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| 本社内に設置したトライアルセンタには、サンプル加工に必要な装置・材料が並ぶ。
シャープな深穴加工を施した試作品を手にする伊藤社長 |
ML
:MQLシステムの市場については?
伊藤
:国内のみだと2〜30億円規模で、まだまだ小さい市場ですが、我々は近い将来、必ず大きく成長すると見ています。工作機械の市場全体で見ますと、世界全体の市場規模は6兆5,000億円、日本のみでも1兆2,000億円の規模です。その20〜30%はMQL化できる。価格の目安ですが、工作機械の5%くらいを想定しています。
日本は、工作機械において世界の頂点に立っています。理由は、NC技術の搭載で成功したからです。特に顕著だったのがNC自動盤の日本メーカーです。圧倒的な強さで市場を席巻しています。我々も含めて、もちろん企業努力があったから、今日の日本企業の成功があるわけですが、自動車メーカーをはじめとした国内エンドユーザーの徹底したコスト低減策が、工作機械業界全体のレベルアップに、間違いなく大きく寄与しています。
ML
:世界展開についてお聞かせください。
伊藤
:今期から、ITW社と組み、北米市場への供給を本格化させます。また、欧州ではITW社のJV企業で、独のAcculube社と協力して、弊社のブルーベを販売していく計画です。今期は欧米の販売戦略を練っていきます。ITW社も我々も、ワールドスタンダードの開発を目指すメーカーですが、販売ネットワークの構築については協力し合っていきます。
重点課題は、中国市場の立ち上げです。2007年10月、上海に、現地法人の浦緑倍上海有限公司(Bluebe ShanghaiTrade Co., Ltd.)を立ち上げました。今は組立のラインのみですが、将来は製造設備を移管させるところまでを睨んでいます。我々のシステムを広く普及させるためには、中国市場をいかに押さえるかが命題です。すでに中国の日系メーカーには我々のシステムが採用されています。「1年で軌道に乗せろ」と号令をかけていますから、立ち上がってもらわないと(笑)。他のアジア地域では、代理店販売のネットワークはある程度構築していますが、中国拠点でコスト的な競争力をさらに強め、我々の存在感を示していきます。
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