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鈴木茂樹  トヨタ自動車 常務役員
環境エネルギー対応に材料から寄与
差別化の鍵はバイオテクノロジー


トヨタ自動車が9月末、水素を燃料とする燃料電池自動車「トヨタFCHV」の長距離走行実験を実施した。テストコースではない公道約560kmの距離を大阪から東京まで燃料の補充なしで走破した。燃料電池や制御システムの改良、水素タンクの貯蔵量の倍増などにより、燃費を約25%向上し、走行距離を従来の2.5倍の780kmに伸ばしたという。満を持しての発表に、自動車業界へのインパクトは絶大だった。
 この燃料電池車の材料はもちろん、トヨタ車の全ての材料開発と品質を“見る”役割に抜擢された鈴木茂樹氏。突出したモノづくり文化を誇るトヨタの材料技術のトップが見据える未来像とは?(2007年 11-12月号掲載)

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鈴木茂樹氏プロフィール
1953年生まれ。名古屋大学化学工学研究科修了。 同年トヨタ自動車入社。自動車用の高分子樹脂製 部品をはじめ多数の新規材料の開発に携わる。日 本高分子学会、触媒学会、石油学会会員。2005 年11月国際プラスチックエンジニアリング協 会・自動車部門ライフタイム達成賞授賞。2007 年6月より現職。

取材:照山みどり(マシナリー・ルブリケーション)
写真:篠原史紀(地球デザイン)

来るべき水素社会に備えて

編集部(以下ML) :6月のご就任後に、名古屋の記者発表会において「ナノテクで貢献したい」と語られたそうですね。
鈴木茂樹氏(以下鈴木) :トヨタ自動車の材料技術分野は、現在4部あります。扱うのは、触媒、塗料、金属、樹脂、燃料、油剤など、全ての材料です。特にこの5年くらいは、先端技術の開発に注力してきました。現在の技術の延長線上では解決できない課題に対して、一段と飛躍するための技術への取り組みです。それを成し遂げるための鍵の一つがナノテクノロジーです。例えば触媒などのクラスターは、数原子の特殊な挙動を解析することによって、飛躍的な性能向上が望めるようになっています。このような現象を学問レベルに納めるのではなく、いかに産業界に持ち込めるかがポイントです。また、金属材料などの微細な構造制御によって、新たな機能を発現することがあります。これらを課題解決の糸口として活用していきたい。一方、全く新規の材料というのは、応用が難しいものです。カーボンナノチューブにしても、なかなか使えるレベルになりません。今ある材料をいかに微細な構造設計をするかが、我々の考えるナノテクノロジーです。
 また、これらの技術を実現するには、シミュレーションと解析技術が必要となります。材料のシミュレーション技術は刻々と進化しています。また、解析技術の進歩も著しい。例えば、In situ TEM(その場観察透過型電子顕微鏡)は、チャンバー内でサンプルをガスや温度によって反応させた状態をリアルタイムに観察します。
 我々は、豊田中央研究所とともに兵庫県の大型放射光施設「Spring-8」のビームラインを数年前から活用しています。非常に高いエネルギーの放射光を活用することによって、材料の結晶状態や化学結合状態がかなり分かるようになってきました。これらの技術を組み合わせ、新しい材料を創製できると考えています。

ML :そのような新素材はクルマのどの部分に活用されていくのでしょうか。
鈴木 :例えばボデーだと、高張力鋼板(ハイテン材)などが該当します。曲げ加工を施した鋼板などの組成的な影響の検証は非常に重要です。Spring-8の成果は、メカニズムの解析に使っています。ある現象を把握したら、それによって仮説を立て、その実証のために解析が必要となります。クルマ作りにこれらの成果を活用するのは少し先ですが、新しい現象が解明されつつある、という状況です。検証しながらモノ作りに活かす、というステップを踏んでいくわけです。
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ML :材料をそこまで極めなければならない理由を教えてください。トップメーカーであるがゆえでしょうか?
鈴木 :確かに生産台数では、世界のトップに位置しようとしています。しかし、量だけではなく、質で世界をリードしていかなければ、いつか巻き返されてしまうかもしれません。質を極め、技術をリードするようになれば、社会にも貢献することになります。
ML :ハイブリッド車(HV)の代表格はもちろん「プリウス」ですが、他の自動車メーカーも開発に注力し始めています。例えば米フォード社は、2010年までに25万台のガソリン-電気HVを製造するとしています。一方、ディーゼルHVや燃料電池車の開発競争も熾烈ですが。
鈴木 :トヨタとして、環境エネルギー対応は最重要課題となっています。これには、もちろん様々な選択肢がありますし、個々の技術それぞれの可能性は常に追求していく必要があります。燃料電池車にしても、将来の現実的な「水素社会」に備えるため、まだまだ多くの研究課題があります。HVも高性能化に向けた活動をしていますし、その中間には、より地球に優しい「プラグインハイブリッド車*」があります。燃料にしても、バイオエタノールのニーズが高まってきています。それぞれの開発課題に対して材料面からもきちんと品揃えしていく必要があります。お陰で本当に忙しいですが(笑)。

*現在市販されているHVは自動車の運動エネルギーを変換してバッテリーを充電している。プラグインHVは、より大容量のバッテリーを搭載してモーターだけで走る距離を拡大させる。利用者は家庭電源からも充電できる。
ML :2002年に発表された「2010年グローバルビジョン」ですが、「Innovation into the Future〜豊かな社会づくりに情熱をかけて」を基本テーマに、中長期的に到来が予測される社会像と、御社が果たすべき役割が示されています。
鈴木 :このテーマには再生社会・循環型社会の到来を見据えた3R(Reduce Reuse Recycle)が謳われていますし、サスティナブルモビリティは永遠のテーマです。あとは、「人とクルマの共生」が大きなテーマとなるだろうと思います。人間工学、脳科学などが、安全性や快適性を追求する上でますます重要になります。
ML :それらを見据えた材料開発のテーマとしては?
鈴木 :やはり環境エネルギーというのは大きなテーマです。これに貢献できる材料というのは沢山あります。例えばHVは、電池・モーター・インバーターという三つの心臓部の部品によって成り立っています。プリウスをHVの旗印としてどんどん台数を重ねていくとして、性能の向上は必須です。電池にしてもまだまだ大きいですから、小型化・軽量化と同時に低コスト化が求められていきます。材料が寄与できることは本当に沢山ある。
 また、HVのモーターに使われる磁石の材料となるネオジウム(Nd)や、注目されている元素としてディスプロシウム(Dy)があります。これらは埋蔵量も少なく、かつ中国に資源が偏在しています。HVの台数が急激に伸びてくると、材料調達のリスクというものが出てきます。ですので、これらの材料を置き換えを狙い、フィジビリティスタディを始めました。
 そしてもちろん、しゅう動部材の効率化も重要視しています。トライボロジーを極めていくと、エンジン効率が格段に向上し、ひいては燃費の向上にもつながります。我々が今、最も注目しているのは、バイオテクノロジーです。バイオエタノールなど燃料をはじめとしたいくつかの材料への活用を期待しています。まずは、将来の自動車用燃料としてどう材料を確保するかということ。トウモロコシやサトウキビといった食材、しかも輸入に頼らなければならないものは厳しいですから、セルロースをうまく使えないかと考えています。対象としているのは木です。木から抽出したセルロースから、エタノールができないだろうかと考えています。今のところ、コスト的に合うレベルになく、ブレイクスルーは必要ですが、将来燃料としてこれが完成すれば、我々は自動車メーカーとして使いたいと思っています。
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 また、既存のバイオ燃料も、パーム、大豆、菜種など、様々な原料からできています。これらが与える影響に、腐食やゴムの膨潤などがありますので、その対策も睨む必要があります。いわゆる“備え”ですね。

ML :木からセルロースを作り、エタノールを抽出するというのは、一見とても大変であるように思いますが、技術の筋としてはいかがでしょうか?
鈴木 :この技術は、お金をかければできます(笑)。ベースとなる技術がないわけではありませんので。ただ、いかに効率的に素材を粉砕して回収率を上げていくのか、というチャレンジが必要です。今のセルロースエタノールの損益分岐をどんどん追及していけば、いつかは現存の燃料とクロスするところまでいけるでしょう。
ML :BRICs地域にある製造拠点をうまく使ってグローバル供給をされています。現地で使われる材料については?
鈴木 :全て日本で見ています。今は特に、グローバル化さらにはグローバル調達を目指していますから。いわゆる「世界同時立ち上げ」というコンセプトに向けクルマ作りが変わってきました。例えば、南アフリカで作ったものを欧州に輸出し、同じ品種を日本からも輸出した場合、そこで品質に差があるなど許されません。設計、材料、工程全ての統一がなければ、世界で同時に立ち上げるというのは実現できません。そのための改善を日々行っています。また、今後の課題として、人材の現地化があります。クルマ作りのスキルを育てるのは時間がかかり、海外の生産拠点でも非常に大きなテーマとなっています。



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