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清水真樹  デンソー 材料技術部 部長
ディーゼル周辺の開発で先行
未来の“エンジン”を見据える


人と環境に優しい“クルマ”のビジネスが変わりつつある。ガソリンエンジンの先をいくエンジン、さらに、未来型エンジンの開発をめぐって、自動車メーカーの活動が一層ダイナミックになってきた。一方、日本の大手自動車メーカーが新コンセプトのエコカーで市場を席巻、さらには中国の新興メーカーなどが台頭するなど、クルマビジネスの役者も変化している。
 世界のあらゆる自動車メーカーを顧客とするデンソーでは、この時代の変化を先取りし、数十万点にものぼる部品・デバイスを膨大な材料の組み合わせから創造し、供給し続けている。クルマの歴史始まって以来の“エンジン一大転換期”に、デンソーのトライボロジスト達が見据えるのは? デンソーワールドワイドの材料技術を統括する清水真樹氏に聞いた。(2007年 9-10月号掲載)

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清水真樹氏プロフィール
1957年生まれ。名古屋大学工 学部卒業。潟fンソー材料技 術部部長。主として、鉄鋼材 料・磁性材料・熱交換器用材 料の開発、表面改質技術開発 に従事。日本金属学会、日本 化学会等会員。



巨大プロジェクトを乗り切れ

編集部(以下ML) :トライボロジーに関係している貴社のグループを紹介いただけますか?
清水真樹氏(以下清水) :当部は総勢約160名で構成され、8つの技術室に分けています。例えば、第6技術室では、トライボロジー・強度を主体とした、材料の評価解析を担当しています。自動車にはトライボロジーが関与する製品が多数使われていますが、デンソーの製品の多くも、何らかのしゅう動部分を持っています(図1)。これらを市場に出す前に、様々な試験を行って評価・解析し、信頼性を上げるのが第6技術室の仕事です。部品に使われる表面処理・コーティングなど、差別化の鍵になる材料の評価は特に重要です。幸い、かなりの評価装置を自社に保有していますので、仕事の効率は上がっています。今から10年くらい前に、品質基盤技術を強化するというプロジェクトがありました。評価装置や分析装置などは、今後の製品開発に不可欠な投資であることを強調してきた結果、かなりの設備を揃えることができました。
図1. トライボロジー特性向上が求められる自動車部品
図1. トライボロジー特性向上が求められる自動車部品(青字で表示した)

 トライボロジーももちろんそうですが、開発途上の不具合を分析していく中で「現象を突き詰めるために観る力」は非常に重要です。分析装置にも、人にも、この能力が求められます。


*蓄圧式ディーゼルエンジンシステム。加圧と制御を別々の装置に分担させ、高圧で少量の燃料を数回に分けて噴射することができる。デンソーが世界で始めて製品化した。このシステムの開発競争は、年々激化している。
ML :海外拠点のスタッフもプロジェクトに加わるのですか?
清水 :海外展開が決まっていれば、当初から情報はシェアします。材料を共同開発するメーカーも、日本メーカーだけではないですから。最適な材料メーカーとの共同開発を最初から行うことで、国内と海外の生産が同時か、あるいは海外生産が先になる場合にも、現地調達時の余分なコストが発生しないようにしています。グリース1つとっても、使う量や目的によって、現地調達がいいのか、日本から持ち込んだほうがいいのか、詳細に検討しています。鉄鋼、アルミ、銅線、樹脂材料なども同様です。


環境への寄与が最上位に

ML :エンジンが過渡期を迎えています。
清水 :コモンレール方式のディーゼルエンジン、ハイブリッドエンジン、燃料電池など、動力源の新技術が進むにつれ、基本的に潤滑性は悪くなります。例えばディーゼルエンジンの場合ですが、軽油はガソリンより粘度が高く、添加剤を多用することによって潤滑性を確保していますが、圧縮比がガソリンエンジンよりはるかに高くなるため、耐高圧材料の開発と潤滑性の維持が必要です。すでに当社製コモンレールの圧力は、1,800気圧レベルまで到達していますが、燃焼効率を上げるため、さらなる高圧化も必要です。ディーゼルは、まだまだ進化するでしょう。欧州ではすでに、新車の60%以上がディーゼルエンジンですし、アジアもトヨタ自動車の「IMV」シリーズをはじめ、ディーゼル車の台頭は続くでしょう。ディーゼル関連部品の表面処理にDLCはどんどん適用されるようになってきています。
ML :他のエンジンに比べて、ディーゼルは最優先課題となりますか?
清水 :バイオディーゼルなどの燃料変化を考えても、ディーゼルが最重要課題の1つです。ハイブリッドエンジンに関しては、電圧が現状の12Vから650Vまでを視野に入れて開発を進めています。これも常に高い優先順位に位置づけられます。その先には燃料電池があります。先々の技術開発内容は申し上げられませんが、自動車メーカー各社とも水面下で着々と進めているはずです。
 エンジンのコンセプトが変われば、部品の体系もがらりと変わります。構成は変わらなくても、“作り変え”が必要になりますから。例えば燃料電池に使われる水素は材料を脆化させやすい物質ですから、電池周りの部品などに既存の材料が使えない場合がでてきます。

ML :日本でもガソリンエンジンにバイオエタノールを使用するFFV(Flexible Fuel Vehicle)が話題になっていますが。
清水 :FFVは今のところ北米・中南米が中心です。トヨタ自動車もこの5月、ブラジル市場に100%バイオエタノール対応のFFV「カローラ」を出したばかりです。部品の潤滑性はやはり悪くなりますね。さらに腐食性も悪化します。表面処理を施したり、場合によっては材料そのものを変えていく必要も生じてきます。通常、我々が評価している車の材料は、エタノール混合率30%前後です。エタノールが15%くらいまでなら問題無く、もっと高濃度になると表面処理などが必要になる場合もでてくるでしょう。トライボロジカルな問題は、もっと詰めていく必要があります。当社においては、環境・安全・快適・利便をモットーに製品開発を進めています。使い慣れた言葉ですが、「環境に優しい」製品の開発が、何よりも上位にきています。
ML :材料技術の寄与については?
清水 :全くの新規製品は別として、材料でできるのは軽量化です。強度を上げて、軽くする、とも言えます。また、環境に優しい材料をどう使っていくか。環境負荷ベースであったり、カーボンニュートラルといった、非石油起源の材料に替えたり。潤滑性の向上もエネルギーセーブには大きなインパクトとなります。
ML :その成果をご紹介ください。
清水 :1つにはスタータークラッチに使うグリースの開発があります。焼き付きを抑え、耐摩耗に優れるグリースです。もう1つは、製造現場の油圧ポンプなどに使う作動油です。グループ内に全展開するため、潤滑性を引き上げた製品を開発しました。これにより、消費電力が低く抑えられ、最終的にはCO2の排出削減にもつながっています。数年前の成果ですが、エアコン用コンプレッサの冷媒がCFC系からHFC系冷媒のR-134aに代わりました。このコンプレッサの材料に、高い耐摩耗性が要求されました。いずれの開発案件においても、国内外の材料メーカーに多大な協力、支援を頂きました。
ML :トヨタグループは、専門の研究組織である豊田中央研究所へ研究を委託されていますが、貴社においては?
清水 :最近では、ディーゼル燃料の軽油の分析を依頼するケースが増えています。軽油は、寿命や潤滑性を向上させるために、添加剤を数種類添加しています。結果として、膨大な種類の軽油が存在していることになります。製品試験結果が思わしくなかった要因として、軽油そのものが問題になることがありますが、我々単独ではとても分析し切れません。一般に、燃料の分析はとても難しいものです。さらに、世界中で販売されている軽油を漏れなく診る必要もでてきます。
トライボロジーとなると、どうしても機械的なしゅう動をイメージしますが、これと同じくらい我々にとって重要なのは、モーター・接点などの電気を伴ったしゅう動の解明です。この部分についても、差別化できる技術を磨くために、もっと経験を積んでいきたいと考えています。(構成・照山みどり)




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