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谷口敏克 ジェイテクト 取締役副社長
本質の探求こそ強さの秘訣 顧客が求める“3”の成果
光洋精工、豊田工機の2社が合併し、ジェイテクトとして新たなスタートを切ったのは2006年1月。“初期逆シナジー”の定説を破り、予想を上回る成果で、同社は2006年度を終えた。「システムの一翼を担うために技術を揃える」という視点を生んだリーダー、それが、副社長の谷口敏克氏だ。ステアリング事業本部長も兼務する同氏の開発にかける想いが、ベテランから若手まで、全グループのエンジニアを牽引する原動力となっている。 (2007年 5-6月号掲載)
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谷口敏克氏プロフィール
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| 1991年 |
トヨタ自動車パワートレーン部DP技術室長 |
| 1996年 |
同社第1ドライブトレーン技術部長 |
| 2001年 |
光洋精工常務取締役就任(同社へ転籍) |
| 2004年 |
同社ステアリング事業本部長、総合技術研究所長、 技術・研究・開発部門・品質保証部門統括 |
| 2006年 |
ジェイテクト専務取締役就任(1月)、
取締役副社長就任(6月) |
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成功した仕組み作り
谷口副社長(以下谷口)
:当社の吉田紘司社長が、着任時の挨拶の際に、「当社のコア技術はトライボロジーにある」と述べたことがあります。極めて専門的なトライボロジーという言葉をご存知だったこと、そしてその技術を大事にしようというメッセージが、大変衝撃的でした。。
編集部(以下ML)
:社員の皆さん、意味はご存知でしたか?
谷口
:トライボロジーって何?と質問したのは、ほとんど間接部門の人間です。
ML
:2006年度を総括すると?
谷口
:まずはステアリング事業です。連結では売上全体の40%を占めるまでになりました。2006年は日系自動車メーカーの需要が増え、順調に推移しました。自動車の販売は、北米ではSUV(Sport Utility Vehicle:スポーツ多目的車)用途のビッグスリー(ゼネラルモーターズ、フォード・モーター、ダイムラークライスラー)が落ち込みましたが、当社の場合、中型車のパワーステアリング系にもともと強かったため、一部の落ち込みを補う以上の伸びとなり、増収・増益となりました。駆動系部品事業ですが、これは微増でした。北米の自動車市場が伸び悩んだのが要因です。軸受事業については、自動車需要を中心に本当に忙しく、嬉しい悲鳴の1年でした。世界的には、中国向けの工作機械や、鉄鋼プラント用、風力発電などの産機に至るまで、あらゆる需要が逼迫し、生産が追いつかない状況でした。工作機械・メカトロ事業は、某社向け工作機械がメインです。ちょうど2006年は、次の大型投資に向かう端境期にあったため、ここだけが減収となりました。
連結では工業炉も売上の対象で、同じく好調だったため、全体として非常にいい成果を上げた年となりました。新生ジェイテクト設立時に、2008年度に売上1兆円達成を目指していましたが、2006年度中に達成できそうな見通しです。
ML
:合併後、すぐに増収・増益というケースは珍しいですね。
谷口
:それはもう、必死でしたから(笑)。合併直後はあらゆるコストがかかりますから、どうしても“逆シナジー”という現象が出ます。間接部門の人的リソースの共用化・合理化については速やかに進めました。また、旧豊田工機の研磨機・研削機など、逆に旧光洋精工の軸受の内売なども、管理費の削減につながりました。調達や、物流コストも合理化しました。
ML
:設計部門は特に企業文化が現れますが、うまく融合されたようですね。
谷口
:ポイントはいくつかあります。旧光洋は、トライボロジーをコアとした事業を強みとしています。しかし、CAE(Computer Aided Engineering:設計対象の機能・性能をシミュレーションによって検討すること)や構造解析に関しては、強化すべきところも多い。一方、旧豊田工機は、まさにCAEと共に進化してきました。2つの企業が、一方はトライボロジー、一方はCAEで補完しあうことができた。様々な軸受、ハブユニット、ステアリングについても、バーチャルに摩擦低減が検討できるようになりました。もう1つは制御技術です。旧光洋は自動車のコンポーネント製造のキャリアから、システム制御については長けていると自負しています。旧豊田工機は、ナノレベルの制御技術を持っています。高級なセミカスタム技術を、自動車のような汎用性と信頼性が高い技術に展開することもできるわけです。その逆もあって、電動パワーステアリングの大きな動作を緻密に制御することも考えられます。さらに、旧光洋は、軸受など「製品のトライボロジー技術」、旧豊田工機は、工作機械に搭載する砥石といった「加工のトライボロジー技術」を有しています。工作機械の方は、加工現場で困っていることがなかなか掴めませんでしたが、ジェイテクトとなってからは、トライボロジーの現象を、工作機械を造る側と使用する側、双方の視点から見ることができる。疑問点を議論し合って全く新しい創造の世界が拓いていく。このシナジーも大きいです。
ML
:現在の“議論重視”のカルチャーは、以前から出来上がっていたのですか?
谷口
:合併前の企業カルチャーとしては、2社とも弱かったかもしれません。特に軸受は、歴史がある分、個人の技術、あるいは匠の世界に近く、なかなか問題点が見えにくかった。その点、私は前職(トヨタ自動車)で、「見える化、形式知化、標準化」の権化の中で仕事をしていましたから(笑)、できるだけ前職のいい点を取り入れようと努力しましたね。私がリーダーとして行ったのは、“仕組み作り”です。仕組みの中で演じるのは、社員1人ひとりです。トヨタ生産方式の1つ、「カイゼン」の文化も、この数年で、一層社員に染み込んだと思っています。
最適解は三位一体で
ML
:開発プロジェクトについてですが。
谷口
:中期開発プロジェクトとしては、今4部門に分かれていますが、これらの垣根を取り払って、すべての事業領域を生かした製品を作りたいと思っています。例えばステアリングと、トルク制御の技術を融合させれば、アンチロック・ブレーキシステムと同じような機能が出せます。ブレーキではなく、トラクションで車輌の姿勢を安定させたり、操舵をサポートできるわけです。ハブユニットからは、タイヤにどのような力がかかっているかも測れる。それから駆動しようとしている力、運転者が車輌を運転することで生じるステアリングからくる力、この3つを組み合わせれば、もっと安全に運転できる車ができるはずです。これを中期の一プロジェクトとして考えています。
また、工作機では、砥石、工作機械、これらのユーザーの知恵を集めて、あらゆる研磨・研削に対応する技術を開発したいと思っています。今は、砥石も工作機も、搭載部品も“組み合わせ”で成立して、三位一体になっていません。初めからベストを目指してすべてを設計していけば、差別化できる製品が出来上がります。さらに、我々はグループ内に熱処理炉の技術も持っています。場合によっては、鉄鋼や他の金属メーカーの意見も生かして、材料の組成から開発すれば、理想的でしょう。熱処理したものは、必ず歪みます。それを研磨したりして平坦にしますが、削りやすい材料組成があるはずですし、限界値もあります。三位一体が生きるのは、ニーズや限界に対して最適解を探す時です。精度が高く、安く、世の中にまだないもの、これらを狙っていきます。
 操舵から駆動まで。ジェイテクトのステアリングシステム |
ML
:開発の強化点はありますか?
谷口
:比較的うまく進んできたと思いますが、強いて言うなら“機能軸”を強くしないといけないと感じています。私がこれまでお話したことは、ほとんどが業際間のことです。事業部制があまりにも強いと、業際間の仕事が手薄になります。ですから、機能軸をもっと強くしたいですね。生産技術で言うと、例えば鋳物という要素技術に弱かったりする。ところが鋳造技術というのは、我々の製品に非常に関係が深い技術です。ここはもっと強化して利益を得られるところだと思います。
ML
:華やかな技術よりも、基盤的、あるいは軸の中の軸、といったところが強化点となりますか?
谷口
:その通りです。今は成功しているかもしれませんが、ふと、浮き足だってはならない、と自戒する時があります。
超低トルクが達成できた理由
 超低トルク円すいころ軸受「LFT-III」 |
ML
:今年の1月に、経済産業大臣賞を受賞された、超低トルク円すいころ軸受「LFT-III」について教えてください。
谷口
:これからの自動車は、「安全、省燃費、快適」という3つの命題をクリアしないと生き残っていけない、自動車そのものが抹殺されると感じていました。もともと、円すいころ軸受は、命題にもかなう理想的な形だと思っていました。高剛性で大きな荷重を支持することができますが、トルクが高いという欠点があります。だったら、トルクを下げよう、という発想です。当初の目標は、現状の1/10でした。玉軸受以下にしようというわけです。ころの長さと径の比や、潤滑油の中で回転するしくみを根本的に見直したり。初めは誰もが無理難題だと思ったでしょうね(笑)。それは、当時の光洋の担当者が、軸受しか見ていなかったからです。しかし、デフ(DifferentialGear:差動ギヤ)、トランスミッションに、円すいころ軸受が一体いくつ使われているかを考えると、これだけ沢山のものが、駆動力を引きずり、エネルギーロスの要因となっていることがわかる。軸受だけだとわかり辛いのですが、システムとしてみると、軸受の役割は大変に大きい。
ML
:開発に要した時間は?
谷口
:3年かかって基礎を作り上げ、2年で量産技術を含めた信頼性を確保しました。実はこの量産技術の工夫、というのが非常に大きな意味を持ちます。この軸受も、つばの部分の表面改質をいかに行うか、円すい面の作り方がポイントです。ころも、つばも、円すい面ですが、特につばの方は、内輪の方の円すい面にクラウニングを付けるのは大変難しいですし、ころは、当たり位置を変えて接触しますから、全面にクラウニングというのは難しい。しかし、ころが自らクラウニング状態を作る構造にすればいい。
ML
:流入する潤滑油量を制御して、撹拌抵抗を低減する、という考え方ですが、ユニークですね。
谷口
:「この軸受は、デフに組み込まれる」というところまで想いを馳せて、デフの図面と向き合い、軸受設計を検討しました。また、油のスペックについてはユーザー任せでしたが、LFT-IIIがこの慣習を破りました。
ML
:受賞された時のお気持ちは?聞くまでもないですが(笑)。
谷口
もちろん嬉しかったですが、いくつか理由があります。1つは、若い次世代の技術者が中心となって作り上げてくれたこと。私は初めのきっかけを作っただけです。2つ目は、奇をてらうものではなく、このような基盤技術で、本当に世の中に役に立つ技術を作ることができたこと。3つ目は、新生ジェイテクトとして認知された最初の製品だったということでしょうか。
ML
:2007年度がスタートしましたが、抱負としては?
谷口
:ジェイテクトという大きな企業になり、ユーザーの期待も、ものすごく大きくなりました。しかしながら、初年度は2社の合併で、1プラス1イコール2にとどまっています。シナジー効果を最大限に生かして、これを早期に3以上にもっていきたい。2007年は、3にすることを目標に頑張ります。ユーザーの期待も3にありますので。
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