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松本和幸 ナブテスコ 代表取締役社長
視点は07年度以降に 新たな設計思想を育む
独創的なモーションコントロール技術で、移動・生活空間に安全・安心・快適を提供する。2004年10月の事業統合後、
ナブテスコが打ち出した企業理念である。開発者・技術者として長く研鑽を積んできた松本和幸氏が、
代表取締役社長として抜擢されたのは、それから1年にも満たない時だ。
グループ会社を含め、4,000人を超える企業のトップに立ち、次世代製品開発に熱い想いを抱く同氏にインタビューした。
(2007年 3-4月号掲載)
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松本和幸氏プロフィール
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| 1989年 |
帝人製機(現ナブテスコ)油機技術部長 |
| 1993年 |
同社岐阜第2工場長 |
| 1997年 |
同社岐阜事業所長 |
| 1999年 |
ティーエスヒートロニクス社長 |
| 2004年 |
ナブテスコ取締役執行役員 技術本部副部長 |
| 2005年 |
同社代表取締役社長 |
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どこまでカバーできるか
編集部(以下ML)
:一般にモーションコントロールとは、「メカトロニクス機器をアクチュエータで制御する技術」とありますが、貴社の定義は?
松本社長(以下松本)
:いわば「特定な分野の特定なシステム動作を制御する機器・要素・スモールシステム」ですね。例えば(と、ペンを取って)、入力に対しセンサで感知した出力情報を演算処理し、アクチュエータが動く、となります(図1)。ビジネスは、カテゴリーA、B、Cと段階を追って大きくなります。カテゴリーAのみで差別化する時代から、やがてはBになり、Cに発展することを考えなければならないでしょう。すでに、Cの範疇にあるビジネスもありますが、「これはAに偏っている」、「これはまだBに留まっている」と、このように考えると製品の位置づけが容易になる。この先10年後のナブテスコの製品の姿を考える時、製品がカバーする領域は、競争力を上げるためにも広くする必要があるでしょう。。
ML
:ナブテスコの精密減速機は?
松本
:Aに該当しますね。演算(コントローラ)部分は、減速機から見るとずっと上流になります。将来は少なくとも、制御信号を受け取るところまでは、広げるべきだろうと思っています。この考え方は、もともと私が開発担当者だった時から、次世代の製品開発の概念として持っていました。
 図1 製品開発の基本概念 |
ML
:減速機でトップシェアを握るまでの経緯ですが。
松本
:国内のメーカー2社が先行し、我々はその後から参入しました。当時から、産業ロボット用の減速機は難しく、問題が山積していたのですが、
我々が開発した技術の素性も良かったのでしょう。それまで3つの大きな問題があったのですが、解決までほとんど時間がかかりませんでした。
1つには剛性です。剛性がいいと、位置決め精度も高くなります。2つには連続動作に対する安定性。3つには、耐衝撃性(耐過負荷)。
ロボットですから、何かにぶつかることもありますが、少々の衝撃にはびくともしません。これらを一挙に解決しました。
ある時、某ロボットメーカーさんに、これらの問題を解決した減速機の可能性を提示したところ、飛びついてこられました。そ
の後も、ロボットの組立を簡易化する提案、配線・配管を簡易化する提案など、約2年に1回のペースで新規提案を継続してきました。
1社に評価されると、後は次々と引き合いが来ました。日本だけでなく、欧州のトップメーカーも我々の減速機をいち早く採用しました。
それも、某展示会に我々のRVシリーズが展示されているのを見て、即断に近い形で変えたといいます。この減速機は、我々が編み出した発明品です。
我々しかできない技術として、時と共に認知されていったということです。80年代の後半に、一斉に流れが変わりました。
技術開発ももちろんですが、いい顧客をトップセールスで最初に得られたこと、営業も万全のサポート体制で挑んだ、経営と販売・技術・生産が、
一体化して取り組めた製品だったと思います。
ML
:生産体制の変遷については?
松本
:減速機が大手ロボットメーカーに認知されてからは、毎月数百台の受注増という状況が続きました。それまでは、岐阜の垂井工場で生産していたのですが、減速機の主要生産ラインの新天地として津工場の設立を決め、91年に竣工したわけです。
ML
:昨年は、津工場の増設も果たされましたが。
松本
:もともと2棟建てるつもりでいたのですが、ようやく実現しました。第2棟も同規模です。どのビジネスが成長エンジンかと考えれば、思い切って投資してもいいと判断しました。
ML
:最近の開発体制については。
松本
:米ボーイング社の最新モデル「B747-8」飛行制御アクチュエーションシステムを昨年末に受注しました。主翼に搭載される最新技術を採用したフライ・バイ・ワイヤ方式アクチュエータで、飛行制御用可動翼のエルロン、スポイラーを駆動するもので、開発に入ったところです。2008年度にはリリースします。飛行制御システムについては、ボーイング777の主要サプライヤーは我々です。この分野の当社のシェアランキングは、世界トップ6に入っています。その実績が買われ、今回の受注に結びつきましたが、トップ6同士、ビジネス上熾烈な競争を常に続けています(笑)。飛行機のビジネスは非常に厳しく、品質、信頼性ともに究極でなければなりません。その点、我々の先輩たちが先を読めたのでしょう。開発に着手したのは30年ほど前ですが、事業としての芽が出てきたのは、15年ほど前の話です。つまり、15年間、誰も文句を言わずに開発費を継続してくれた。お陰で徐々に花開くことになったのですから。
2007年のマイルストーン
 図2 ナブテスコの長期ビジョン |
ML
息の長い開発計画が沢山ありそうですが。
松本
:逆に今心配しているのが、「面白いからやってみよう」というパッションが不足しているようにみえることです。直近の開発テーマも企業としてもちろん重要ですが、それだけだと“面白くない”。これまで先輩の開発者が練り上げてくれた設計CADツールがあったとして、数値を打ち込んで結果を出すだけではなく、「なぜこの数学モデルになるのか」、「なぜここの寸法はこうなるのか」、「どこにポイントを置いて設計すべきか」といった基本的なことが伝わりにくくなっている。この状況を打破するには、ベテランが若手を集めて真剣に議論する場を設けることだと思っています。かつての我々がそうであったように、仮説を立て、検証して、議論する。わずかでもいいから、そんな機会を設けて欲しい。現在の課題として、技術・開発体制強化の優先順位が高くなっています。実はこの2007年度が、設立以後の中期経営計画の最終年度にあたります。幸い、ビジネスは好調といえるレベルですので、「1年間、技術開発に関わる課題をよく議論しよう」と社内に伝えているところです。経営陣が出て行くところと、現場に任せるところも線引きします。そして、その次の3年できちんと手を打つための下地を作り、2014年、事業統合10年後の姿を実現していく考えです(図2)。
私が考える製品の競争力とは「競合と比べてどれくらいのアイデアのバリエーションを持てるか」ということ。それには、管理職が若手を意識的に鍛え、次に何をするか的確に準備する。ただ任せるだけでは品質が確保できなくなりますから、ベテランと若手の議論が必要になりますね。
ML
:社長ご自身が陣頭指揮を執るのですか?
松本
:私の役割としては、駆け込み寺を作ることかな、と思っています。計画に対して、遅れていたり、所望の品質が確保できなかったりした場合、経営側からサポートが可能か、共に考える場のことです。あまり私が前に出てもね(笑)。
今はどうなんだ、と自問する
ML
:統合後、ここまで極めて順調に進められていますね。
松本
: ナブテスコは、2003年9月、60年の歴史を持つ帝人製機(親会社帝人)と、80年の歴史を持つナブコ(親会社神戸製鋼)の経営統合により誕生しました。当時の社長同士がよく議論して決めたものです。設立して3年目を過ぎたところですが、それぞれの良いとこ取りをした結果が今だと思います。モーションコントロールというコンセプトを強力に推し進めるためにも、お互いの利益が一致したわけです。規模もちょうど同じくらいでしたし。また、両社共通に油圧システム関連のビジネスを伸ばしたい、という大きな課題がありました。
ML
:今は稼ぎ頭の1つですが。
松本
:当時は、国内市場が成熟した上、大規模な公共投資も国の財政立て直し策の前で、どんどん整理される時期がありました。一方、BRICsの台頭などから、世界規模のマーケットが非常に速いスピードで大きく広がってきました。当社はその大きなうねりがくる直前に出来上がった会社です。トップ同士の気持ちが揃ったんでしょうね。早い段階で合併という方向に向かって進み始めました。ナブテスコの7カンパニーが、1つの会社であるという意識を共有するためには、10年後やその先の姿を描いて、切磋琢磨しながら利益ある成長をしていかなければならない。また、若い人たちが10年後、どのように会社を引っ張っていくのかが描けるような長期ビジョンを作る必要がありました。2005年5月に、中期経営計画として、2008年3月期までの目標を公表しました。
ナブテスコの製品セグメントは、精密機器事業、輸送用機器事業、航空・油圧機器事業、産業用機器事業の4部門。この事業を、精機カンパニー、鉄道カンパニー、自動車カンパニー、舶用カンパニー、航空宇宙カンパニー、パワーコントロールカンパニー、ナブコカンパニーの7カンパニーが分担している。中期経営計画は、業務・財務・キャッシュフローの目標から、新製品・新事業の創出、既存事業の収益力強化、海外市場への積極的参入、CSR重視の経営、組織風土の変革など、5項目にわたって詳細に記されている。
松本
:常にこの計画の趣旨に立ち返って、「今はどうなんだ」という見方をするようにしています。
開発の喜びを継承したい
ML
:ナブテスコ製品の中でも、トライボロジカルな課題を突き詰めなければならない製品はいくつもあります。
 図3 減速機付き油圧モータユニット |
松本
:一番苦労したのは減速機付き油圧モータユニットのギヤかもしれません。ほとんどのギヤが転がり歯車であるのに対し、これはピン歯車です。半円溝の軸
受で支えられ、可動するのですが、ピンと半円溝の軸受間はすべり動作になります。起動・停止の制御性や効率をいかに上げるかが課題でした。いわゆるストライベック曲線の境界潤滑以下のところでいかに軸受性能を改善するか。潤滑油、表面処理など考えられる組み合わせを30種以上試しましたが、約1年後に最適な固体潤滑剤を見つけました。それまでは、いい技術は片っ端から実験しました。新しいものが出れば、即刻調べに行ったり。
ML
:ベストの組み合わせを見つけた瞬間のお気持ちは?
松本
それは嬉しかったですよ。耐久試験をしたら、それまでと違って鼻薬が効いている(笑)。技術屋でないと分からない喜びがあります。今でも、海外の展示会に行って、思いがけない機械に我々のコンポーネントが装備されているのを見ると、「やった」と思いますね(笑)。昔は新製品を出す時、製品にお神酒をかけたりしてました。「頑張ってこいよ」と。一番苦労した開発者と一緒に写真を撮るんです。
ML
:今も続いているのですか?
松本
:垂井工場だけ続いているようです。こういう“いい習慣”は大事にして欲しいんですが(笑)。
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