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取材:照山みどり(マシナリー・ルブリケーション)
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まだ真新しさを残す工場の屋内に、高密度に配置された製造設備の群れ。これらは全て、油圧走行モーターを生産するセル生産方式(1人屋台生産方式ともいう)の加工ラインだ。幅1,200mm、奥行数十mに統一された長方形の各セルに、人影はほとんど確認できない。しかし、いくつかのセルの隙間に、稼働するものがある。この小さな限られたスペース内に、700mmの稼働幅で、まるで知能を有するかのように俊敏に行き来するハンドリングロボットたちである。
富山県滑川市に位置する不二越の主力生産拠点の一つ、滑川事業所には、同社の差別化製品― 精密部材、油圧機器、工業炉などを製造するラインが配備されている。その全てが独自の設計思想に基づいたセル生産方式をとっている。そして、不二越が開発した「プレスト」シリーズをはじめとしたハンドリングロボットたちは、主にセル生産の装置間搬送を円滑に進めるための重要なリソースであり、一つのセルを“一つの製造装置”としてまとめる役割もこなす。この工場内では、20台以上のプレストが稼働していた(2008年4月現在)。
ロボットを配備したラインには、さらに重要な役割が課せられている。産業用ロボット事業で国内トップグループに位置する不二越が、新規ロボットのテスト・改良を重ねるための試作実証ラインなのだ。昨年発表した「プレストMR20」は、市場にリリースする前に、手の役割を担う汎用ハンド「FLEXhand」(右写真)や、人間の目にあたるビジョンセンサー「NV-AX」を搭載し、いかに高速に、正確に稼働するかを実ライン上で検証した。顧客のニーズを満たすと同時に、社内の製造インフラを強化する狙いもあるのだ。(2008年 春号掲載)
 FLEXhandを搭載したプレストMR20。目の役割は、
オプションで搭載されたビジョンセンサーが果たす
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| 拡大する産業用ロボット市場 |
 最新鋭自動車工場に導入された超重可搬ロボット「フォルテ」シリーズ
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 FF4速オートマチックトランスミッション。 多数のナチ*ブランドが搭載されている(*不二越の商標)
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ここ数年、産業用ロボットの市場は、国内を中心に右肩上がりに伸び、活況となっている。2010年をターゲットとした市場予測の中には、ワールドワイドで6,000億円から1兆円を超えるものもあり、伸び率も年々高くなっている。プレストシリーズのような敏捷な垂直多関節ロボットは、各種の部品組立や搬送などに使用され、可搬重量3〜30kg前後が一般的である。これらの組立・搬送工程は、自動車の溶接や塗装ラインほど自動化が進んでいないため、拡大の余地が大きいとされている。近年、労働者不足などの理由から、工程の自動化に対する関心が高まり、市場は急速に拡大している。
一方、自動車本体の組立工程は、新たな利用領域として広がりつつある。タイヤ、ハンドル、シートの取り付けといった複雑で精緻な動きが求められる工程に、積極的に採用が検討されるようになった。こういったニーズに対応するための各要素技術や、制御技術も急速に高度化してきた。
ロボット動作の自由度は、“軸”の多さで決まる。一般に、人間の腕は7〜8軸の自由度を持つと言われており、軸が多いほど複雑な動作が可能だ。縦横はもちろん、斜め動作、“手首”の回転・反転など、あらゆる動作が求められている。これらが滑らかに、高速に、正確に行われることで、工程内の作業は飛躍的に効率化されるからだ。
不二越のロボットは、大型のものでは可搬重量700kgを超える(前ページ「フォルテSC700」)。これらの開発には、顧客の率直な要求が、ダイレクトに反映されている。例えば、ものを掴んで持ち上げる作業にしても、下から上へ斜め動作の軌道をとることで、タクトタイムが半分に短縮される、といったことが起こる。しかし、その斜め動作は、時として床から天井近くまで一気に行うことを想定するなど、特殊な要求も少なくない。作業効率を追究するため、ロボット開発は顧客との共同作業になり、カスタム品の生産から始まる。しかし結果として効率が格段に上がれば、特注のロボットでも量産化への道が拓けることになる。
ポテンシャルは高いが、全ての作業がロボットに置き換えられるわけではない。導入に積極的なユーザーの大半が、人間とロボットとの共存を志向している。1人当たりの作業量の縮小や、負荷軽減も明示されるケースが多い。こういった傾向は、日本の製造会社にもっとも顕著に現れている。人手を置き換えることに躊躇せず、工程の合理化において世界をリードしているのが日本だ。産業用ロボットの市場として、日本が最大であるのもこのためだ。
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| セルに人のスキルを埋め込む |
日本のものづくりにおいては、大量生産の時代から改善能力、生産性の向上など、目に見えない競争力に強みを発揮してきた。多品種少量時代に移行した現代も、この“裏の競争力”は衰えることがない。不二越においても、量産品は可能な限り自動化して流す。量が少なければセル生産に対応したラインを組み、多品種に備える。このセルに、「人間のスキルを埋め込むというやり方」を指向し、独自の製造技術としてブラッシュアップしている。さらに、セルを可能な限り小さく、緻密に仕上げること。無駄なスペースを極限まで減らし、ロボットのワーク幅も縮小された分だけ、製品が完成するまでの時間が短かくなる。また、工程数が多かったり、複雑な加工を要する製品については、隣接したセルに搬送して必要な工程を経て、もとのラインに戻す。一つの製品が完成するまでに要する時間は、緻密に計算され、目標値に合うよう1工程時間を計算する。
前述のように「セル一つが一つの製造装置」である。そして、人のやる仕事をロボットがこなすようにプログラミングできれば、セルごと、そっくりそのままコピーして、別拠点での展開が容易となる。世界各地に生産拠点を有する同社では、顧客の求めに応じ、現地生産を推進している。いつ、どこで、どのような要求が来ても、同じラインと部材で対応するため、ラインはどこでも垂直立ち上げが可能というわけだ。
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| 枠を超えるシナジー |
 不二越の要素技術や製品を集積させたショールーム「ナチカレント」。
不二越のシナジーの系譜でもある
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 Quality Assurance(QA)ラボ。三次元測定や元素・表面分析を担う
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 特殊材料の製造技術も強みの一つ。 真空浸炭炉「エンカーボ」の組立ライン
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不二越は1928年、長崎県出身の井村荒喜が富山に創業した「不二越鋼材工業」を前身とする。切削工具の生産から事業を開始した時、井村は将来の材料事業への進出に、強い信念を抱いていた。その想い10年後にハイス(高速工具鋼)の量産化に成功して実現した。以来、合金鋼、ベアリング鋼などの特殊鋼を開発し、同社のものづくりに最適化した材料を次々と自社製品として提供し続けてきた。現在は、熱処理/コーティングを加えたマテリアル事業として、大きな柱となっている。外販比率は80%を超えた。ロボット事業に進出したのは1968年と早い。工作機械の自動化技術と油圧制御技術を応用して油圧ロボットを作成したのが始まりという。以後、溶接ロボット、塗装用ロボットといった“王道”をラインナップし、90年代前半には、プレストの前身のハンドリングロボットを開発している。
材料がなければ、あるいはモノがなければ自前で創る。新たな製品をまた自社にフィードバックし、さらに新たなニーズを探す、という不二越流のスタイルは、創業者の井村がいち早くシナジー効果の意味と有用性を理解し、活用した結果、世界でも類をみないユニークなビジネスモデルとして確立されてきたのだろう。富山本社に置かれた開発本部では、同社全製品の企画・開発・製造から、自社内の製造設備設計・開発・製造までをこなす。ものづくりに関する全ての英知が、井村のDNAを継承しながら、ここに結集している。これほどの広い技術ポテンシャルを有しながら、顧客のニーズの広がりに完璧に対応するのは至難の技である。不二越では、全ての事業において、技術提携企業とのコラボレーションを推進している。競争領域ではない技術を共有し、お互いにない技術は補完しようという考えだ。技術を囲い込むより、ともに市場を形成することに重きをおく。ここ数年は、国内外の提携企業との共同開発も始まっている。もっと速く、強く、正確なものづくりを実現するために。不二越のシナジーは、企業という枠を超え、さらに大きく拡大しようとしている。
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