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 敷地面積7,000m2、延床面積8,800m2のR&Dセンター。正門側から全景を望む |
マシナリー・ルブリケーション編集部 ※文中敬称略
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古くは白砂青松の静養地・別荘地として知られた穏やかな湘南の町、辻堂。1947年(昭和22年)、この地で、国産工場の竣工と同時に、グリースメーカーとして産声を上げた協同油脂は、今年で操業60周年を迎えた。その節目の年の6月に、基本構想・設計から約3年を経て、辻堂R&Dセンターが竣工した。旧研究所で稼動していた試験設備や実験装置の数々、そして新たに設備に加えられたシステムの検証を全て完了させ、万全の備えで出航している。
国内トップから世界のトップを目指す協同油脂の開発動向を追った。(2007年 11-12月号掲載)
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| 環境にやさしく合理的な拠点に |
ここR&Dセンターは、辻堂駅周辺地域都市再生事業「湘南C-X」(湘南シークロス)の実施に伴い、協同油脂が60周年記念事業に合わせ建設計画を進めてきたもの。創業の地に、本社の機能と研究開発拠点を結集し、リソースの合理化を図った。
 事務棟4階のテラスからは、都市再生事業の進行状況がよく見える
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 1階の展示スペースに並べられた初期の技術報「グリースタイムス」 (1953年創刊)
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JR辻堂駅の北側に広がる広大な建設用地に、現代的な社屋がひときわ目をひく。現会長の小船昭が設計にこだわったという2〜4階部分のバルコニーや、コーポレートカラーのグリーンで彩られた壁面のロゴマーク・扉、社屋の周辺にちりばめられた様々な樹木が季節感を醸し出す。総敷地面積7,000m2、延床面積8,800m2で、事務棟と研究棟を有する。建設にあたって特に配慮したのが、近隣住宅地への影響だ。製品の取り扱い工程上、有機溶剤を使用するため、吸気・排気設備には最新鋭のシステムを導入し、建家屋上の化学処理設備を経由させ、無害化した後に排気する。音、臭気、排気に関しては、徹底した処理手順を踏むようにしたという。
研究棟には通常、技術陣以外の社員が足を踏み入れることはできない。顧客への守秘義務を忠実に励行するためだ。研究棟の1階は、各種の台上試験機を備えた大型試験設備室、そして試作室を設置している。2階は、試作した製品の品質を検査する潤滑関連試験室、分析研究室となっている。操業時から使用しているという古色を帯びた検査機をはじめ、あらゆる装置・機器が並ぶ。自社内で評価できないものは、恐らくほとんどないだろう。 |
| “アート”を製品化する |
 研究棟2階の試験室。室内は常に一定の清浄度に保たれている
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 CVJグリース台上試験機
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 機器分析室
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協同油脂の性能評価の厳しさには定評がある。試作品が完成したら、実際に使用する環境に近いシミュレーションテスタを制作し、使う側、作る側双方が納得するまで試験を行う。「シミュレーションができれば、油剤開発の8割は達成したものと同じ」。同社技術本部長の榊原正義は、グリースが機械に給脂されてからが本当の勝負、という。グリース・加工油の総製品数は数千単位。その全てが、綿密なシミュレーションテストを経過してから、ようやく市場に出ることになる。
グリースはアートだ、と言われることがある。同じレシピ、同じ条件で再現したつもりでも、反応のさせ方や温度、撹拌の時間によって、大きく性質の異なるグリースができ上がってしまう。確かにグリースは、勘と経験によって奏でられるハーモニーのようなものかもしれない。それは、緻密に制御されたコンピュータや計算科学のみでは制御できない世界だろう。また、適用される機械によっても要求される性能は、適用される機械によって異なり、また時々刻々変化する。グリース単体で優れた性能であっても、シミュレーションを経ないと意味を成さないのだ。
研究棟の1階奥には、2重扉で厳重に仕切られた軸受専用の試験室があった。そこには、軸受の種類ごとに設置された専用台の上で、ハウジングに納まった複数の軸受が高速回転していた。グリースの加速寿命試験室だ。国境を越えた軸受とグリースのハーモニーの競演。ここがグリースの特性を試験するために、グリースメーカーによって作られた試験室であることに驚くが、オランダ、シンガポール、アメリカ、中国に子会社を有し、世界各国の顧客を相手にする協同油脂だからこそ、ここまでやるのだろう。
協同油脂は、自他共に認めるグリースの総合デパートだ。ニーズを持ち込む顧客に対して背を向けることが許されない。「できる」ことを前提にし、そこから挑戦が始まる。小さなメンタム缶に入れた一握りのグリースであっても、どれくらいの性能を出せるのか、品質をとことん極められなければ負けだ。 |
| 次に創造すべきもの |
 等速ジョイントの展示コーナー。グリースの給脂部分が一目でわかる
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 熱間潤滑性試験装置
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 大型設備試験室には堅牢な天井搬送システムを装備
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 右:常務取締役技術本部長 榊原正義 左:取締役技術本部副本部長 木村浩
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2006〜7年にかけて、同社の業績は絶好調。顧客のニーズはさらに多様化し、同時に短納期対応を求められるようになったことから、技術陣のやるべきことは増え続けている。一方、顧客のモノ作りは、グローバリゼーションへと急速に変化している。特に、現在の協同油脂の主力ユーザーの一角を占める自動車関連メーカーの大半は、海外に製造拠点を有し、資材の現地調達も行っている。顧客対応は複雑になるが、時間の猶予はない。
自動車の中でも特に国産自動車の動作は非常に複雑だ。パワートレイン系や足回りだけではなく、窓、シート、ミラー、ランプなど、各所に複雑な潤滑技術が求められる。ソリューションをどれくらい、いかに迅速に届けられるかが勝負の分かれ目。そして、クルマ作りの方向も二極化している。一方は高級車。もう一方は、インドなどで市販を計画している「3000ドルカー」、超低価格車だ。双方に関連するメーカーからの油剤の引き合いが猛烈な勢いで伸びているという。限られたリソースで所望の性能とコストに落とし込むのは至難の業になりつつあるが、これは協同油脂の技術の幅を広げるための鍛錬ともなろう。「顧客の喜びが我々の喜び。こんな潤滑剤が欲しかった、という一言を聞くための仕事」。グリース開発への思い入れを語る木村浩(技術本部副本部長)の声は明るい。
自動車に限らず、海外での顧客対応の強化はすぐにでも着手しなければならない課題だ。製造・販売だけでなく、顧客の課題をいかに素早く解決するかが問われる時代になっているからだ。日本の協同油脂から世界の協同油脂へ。辻堂のR&Dセンターは、世界を睨む司令塔としての機能が求められていくだろう。
技術のトップとして、常に次世代に想いを馳せる榊原の感性に、強烈なインパクトを与えた言葉がある。トヨタ自動車の渡辺捷昭社長が、就任時に語った“これから作りたいクルマ”のイメージだ。それは、「乗ると健康になるクルマ」。使う側と作る側の関係を示すものとして、こんなに凄い言葉があるだろうか。
「将来の夢として、使えば使うほど使用環境が向上して、エネルギーロスが減少するグリースを作れないだろうか、と考えるようになった」(榊原)。基本は、要求機能に合ったグリースを作ること。そしてそこから何かを創造したいと言う。アートへの感性がないとグリースはできない。次世代を制覇するための創造力も、アートそのものである。 |